盛装をしたアンドレは一度深呼吸をして ジャルジェ家のエントランスのドアをたたいた。
扉は開かれた。さあ、これからアンドレは自分の花嫁を探し出さなければいけない。

"いったい どこに隠れているんだ?"

通常 この"隠れた許嫁"の儀式の際には花嫁は穀物倉庫などに隠れて新郎を待つものだが 
オスカルがそんなに素直なわけがない。きっと何か意味のある場所。二人にとって特別な。

それはどこだろう。二人で遊んだ裏庭か、よく逃げ込んだレモンの小屋か、おれの部屋 
いいや違うな。あいつはきっと・・・

あれはおれがお屋敷に来て最初の冬だった。
雪で閉ざされたおれ達は屋敷の中でかくれんぼをしていた。
ところがいくら探してもオスカルは見つからない。もしかしたら屋敷の外にいるんじゃないか?
そうだとしたらこんな長い時間、もし薄着で雪の中にいたら・・・
そう考えたら 急に怖くなりおれは外に飛び出そうとした。

「どこへ 行くの」
ふいに誰かに腕を掴まれた。
「放して ナタリー!オスカルが オスカルが・・・」
おれは思わずワンワン泣き出してしまった。泣きじゃくるおれから何とか話を聞いたナタリーは
「あのね オスカルさまのお部屋には衣裳をしまう小部屋があるんだけど 
周りの壁と同じ模様のドアが付いていて ちょっと見ただけでは部屋があるなんてわからないの。
でもね よ〜く見ると切れ目があるからきっとわかるわ」
「ありがとう ナタリー 探してみる!」
おれは一目散に駆けて行った。オスカルの部屋に入ると張り付くように壁を探った。

そして 見つけた。綺麗な色とりどりのドレスに囲まれたオスカルを。

「絶対 見つけてくれると信じていたよ。」
サファイヤの瞳をきらきらさせて
「アンドレなら ぼくがどこにいても 絶対見つけてくれると信じている!」
そう言っておれに抱き付いてきた。
「遅くなってごめんね。」
ぎゅっとオスカルを抱きしめた。
「でも おれは必ずオスカルを見つけるからね。」
オスカルはおれの肩に乗せた頭を揺らして応えてくれた。
もし オスカルが"どうしてここが分かった"と聞いてくれたら 
おれは"ナタリーに聞いた"んだとあっさり言えただろう。
でもオスカルがあんまり嬉しそうだったので言えなくなってしまった。

オスカルの部屋に続く階段を上る。大人になった今なら分かる。
あそこは唯一オスカルが女であることを肯定してくれる場所だったんだ。
おくさまとおばあちゃんはちゃんとオスカルに"逃げ道"を用意してくれていた。
懲りもせずドレスを作り続けるのを 何を無駄なことをと思っていたが"無駄ではなかったのだ"

あれは"いつでもあなたが女に戻りたかったら わたし達は応援しますよ"というメッセージ。
時折きっとオスカルはあそこでしばし考えたに違いない。
そしてその度、自問自答してまた歩き始めたのだ。

"いつでも 女に還れる けれどわたしはやはり 今の生き方を選びたい!"

オスカルはこの部屋のドレス達のおかげで追い詰められずにすんだのだろう。

そして 一度だけ このドレスの力を借りて 女に戻った。

そして 辛い初恋を乗り越えたのだ

オスカルの部屋の扉を開けて 奥の寝室の壁の切れ目にそっと手をかける。

「絶対 見つけてくれると信じていたよ。」
サファイヤの瞳をきらきらさせて
「おまえはいつもわたしを見つけてくれる。黒い騎士に捕まった時も アラン達に拉致された時も。」
窓の無い小部屋の中でさえ オスカルは輝くように美しい。
色とりどりのドレスに祝福されるように包まれて。

「けれど もうわたしを見つけてくれなくていい」
手を取り小部屋から導き出す。
「もうおまえから 離れはしないから」
そう言うとオスカルは朝日の中で微笑んだ。
    前へ    ダンドリBOOKの世界    次へ
inserted by FC2 system