「せっかくだから 色々試してみるか」
「そうですわ。」
ロザリーが歓喜の声を上げた。ばあやもあれこれ勧める。
着せ替え人形のようにオスカルはつぎつぎドレスを試着した。

アンドレは壁にもたれて 女達の様子を眺めていた。

"こんな 可愛いオスカルを眺める日が来るなんてな"

アンドレには退屈な時間ではあったが オスカルが幸せならと・・・

・・・?

アンドレは幸せなはずのオスカルの顔が時々曇るのに気付いた。
ドレス選びに夢中の女達は気がつかない。
注意してみるとクルンと鏡の前で回った時にその顔をすることがある。
さらに注意してみると それは肩が大きく開いた服の時が多い。やはり傷痕が気になるのだろう。
けれどオスカルが本当に着たいのはそういうドレスなのだ。

アンドレはオスカルがそうしたドレスを試着した時を見計らって 後ろからオスカルの肩を抱いた。
「アンドレ?」
今まで黙って見ていたアンドレが 急に自分を押さえたのでオスカルは驚いた。
アンドレは微笑んでオスカルを鏡の方に向かせた。

「素敵だ。こういうドレスも良く似合う。」
「しかし これでは・・・」
「鏡を見てごらん。傷なんか見えはしない。
一枚こういうのを作って画家のアルマンに肖像画を描いてもらったら。」
「結婚式とはまた別のドレスをつくるのか!?」
「いいじゃないか。」
アンドレは優しく耳元で囁いた。
「美しい・・・」
オスカルの顔にさっと赤みがさす。
「本当に・・・アンドレ・・こんな可愛いドレス わたしには似合わないんじゃないのか?」
アンドレにはもうオスカルの言葉の真意が分かっていた。
「似合う。とても・・・」
そして こっそり耳元でもう一度囁く。
「美しいよ・・・オスカル!」
その言葉に後押しされて オスカルはもう一枚ドレスを作ることにした。
今度はしっかり肩が出ていて背中も大きく開いている。

「ああ 今度のドレスはその青い生地がいいな。刺繍は・・・」
頬を染めて恥ずかしそうにオスカルは自分の希望を伝えていく。
それを聞きながらベルタン嬢は 式用のドレスもオスカルのより好みのものにデザインし直してくれた。
結果としてオスカルは自分の本当に着たいドレスを2枚作ることが出来た。

やれやれ そろそろ終わりかなとアンドレが思い始めた頃
「・・・で新郎さまはどのような衣装をお召しに?」
「え!?」
「結婚式ですもの衣裳だってペアで コーディネートなさらなければ。」
今度はアンドレが女達の着せ替え人形になる番だった。
オスカルの衣裳作りにあれほど時間をかけたにも関わらず 
女達は元気でアンドレの意見など聞きもせず 式用と肖像画用二枚の衣裳をオーダーした。
「おれも2枚つくるのか・・・」
「当たり前だ。肖像画は"夫婦"揃って描いてもらう。」
にっこり笑うオスカルにアンドレが逆らえるはずもなかった。
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