「波の音が聞こえる…」

アンドレの腕の中で オスカルはぼんやりとつぶやいた。
二人を包んでいる毛布を引き上げまき直しながら アンドレはクスッと笑った。
「ああ… ここはノルマンディーだからな。ここに着いてからずっと聞こえている」
「はは…言われてみればそうだな」
オスカルも自分のおかしさに気がついて声を立てて笑った。

「どうして 気がつかなかったのだろう?」
返事の代わりに自分を抱きしめ 首筋にキスをし始めた恋人に彼女は答えを見出した。

夕べ ずぶ濡れでここまでたどり着いた二人は 
暗がりの中 なんとか乾いた薪と火打ち石を見つけ暖を取ることが出来た。
赤々と火が燃え上がると 唇を真っ青にして震えているオスカルの衣服を脱がせ
毛布でくるみ 毛皮のラフの上に座らせた。

幸い台所にワインとチーズがわずかばかりあった。
アンドレはワインを暖炉の火で温めオスカルに渡し 今度はチーズをあぶり 
持参した袋の奥でどうにか濡れずに済んだパンの上に落とした。

それを食すといくらか血色の戻ったオスカルは 倒れるように寝込んでしまった。
彼女の頭の下にクッションをあてがい 毛布を掛け直し 
鍵の閉まらない扉の前にテーブルとイスを寄せてバリケード築き 
雨の吹き込む窓とオスカルの間に衝立を立て倒れないように紐で括った。
それらがすむとアンドレはこのジャルジェ家の別荘の中を調べ始めた。
彼はまだ眠るわけにはいかない。

略奪の跡はむごたらしいが 屋敷そのものは破壊を免れたようで 
窓と扉がバキバキに壊されているだけで済んでいた。
めぼしい調度品は持ち去られていたが 地下の食糧庫の隠し扉の奥には
何本かの極上のワインが難を逃れていた。
それを足元に転がっていた藤籠に入れると 地下から上がり 
かつてジャルジェ将軍が使っていた書斎に向かった。
そこにも隠し部屋があり 銃と弾薬、それに金細工の時計と翡翠のバングル 
サファイヤとダイヤモンドのネックレスを手に入れることが出来た。

オスカルのもとに戻ると アンドレはようやく彼女の横でパンとワインを頬張り 
暖炉の火でまるで自分をあぶるように温め オスカルの毛布を開き 体を滑りこませた。

眠りはすぐにおとずれた。この嵐の中ほとんど休まずにここまで来たのだ。
いかに軍隊で鍛えたとはいえ疲れていないわけがない。
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