ナタリーおばさんの厳しい指導のもと リングピローは着々と出来ていく。
アンドレはこう見えて裁縫は得意だ。子供の頃から汚れを気にせず駆け回る幼馴染の
簡単な繕いものをしてきたからだ。本来ならこんなことアンドレがしなくても良いのだが
子供の頃、オスカルが乱暴な遊びをしてると知れると怒られてしまうと思って
こっそり自分で繕おうとしたのだ。 深夜作業場に忍びこみ こそこそ繕っていた。

「やっぱり あんたか アンドレ!」
突然声をかけられて アンドレはびっくりして指を針で刺してしまった。
「いてぇ!」
「ばか ほら指をお出し」
慣れた手つきで当時まだ見習いであった若いナタリーは傷の手当をした。
「最近 オスカルさまのブラウスやキュロットにおかしな縫いあとや血のシミがあったから 
きっとあんただと思ったわ。」
「じゃあ やっぱり バレてたんだね。」
しょぼんとしているアンドレの肩にナタリーは手を置いた。
「安心おし。あたしがみんな直しといてあげたから」
「ほんと ナタリー」
「うん」
「怒ってないの?」
「大事なお嬢様のためだったんだろ 怒ったりしやしないよ。」
よしよし アンドレの頭を撫でた。
「でも これからはあたしに言いな。あんただって 昼間散々走りまわって クタクタだろ」
「ありがとう ナタリー。でもおれ 繕いもの覚えたいんだ。
これからもオスカルの傍いるなら 必要なことだと思うんだ。」
ナタリーは真っ直ぐなアンドレの気持ちがまぶしかった。
「わかったよ。教えてあげる。でも無理はダメだよ」
「うん お願いします。ナタリー先生」
「先生は止めてよ 今まで通りナタリーでいいよ。」
言いながらも悪い気はしない。この夜から秘密の裁縫教室が始まったのだ。

チビのアンドレは今は大きくなって 自分の結婚式の為にせっせと針を動かしている。

"やれやれ いくつになっても 大切なお嬢様のためなんだね"

つい潤んでしまったナタリーの目には、小さなアンドレが一生懸命針を動かす姿が重なって見えた。

「リングピローと言えば こんな話を聞いたことがあるわ。遠い異国の話なんだけどね。」
小間使いの一人が言い出した。
「結婚式に使った リングピローを産まれてきた赤ちゃんの
"ファーストピロー"(赤ちゃんの最初の枕)にすると幸せになれるんですって」
すると別の小間使いが
「あら そんなの アンドレは知っているわよ。だって・・・」
そう言いながら アンドレの手元に目くばせした。
アンドレの作ってるそれは いかにも赤ちゃんの枕にぴったりだった。

小間使い達の視線に気づいてアンドレは照れ臭そうに 生地で顔を隠そうとして
「アンドレ!生地が汚れるだろ!」
ナタリーおばさんに また叱られた。

アンドレの作ったリングピローは 長方形で柔らかくシンプルなベースに 
後で取り外せるバラの飾りが付いている。指輪を抑えるリボンを最後に付けて完成だ。

「上出来じゃないか!アンドレ」
ナタリーおばさんが褒めると 皆も集まって来て
「まぁ ほんと 素敵ね」
「あたしにも作ってほしいな」
「相手ができてから お言い」
みんなけらけら笑う。"ナタリーおばさんの作業場"はいつも笑いが絶えない。
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