ふと、行列の先頭が止まった。

「あいつ やめろって言っておいたのに」
ベルナールが舌打ちして馬を先頭に走らせる。アンドレも続く。

オスカルを乗せた馬車の前には酒樽やわらが道いっぱいに積まれ行く手を阻んでいる。
その酒樽の上でアランが腕組みをして座っていた。
その周りにいる男達にジャルジェ将軍が馬車を下りて金貨をふるまっている。

「アラン!止めとけと言っただろ」
ベルナールが怒鳴った。
「こうした 行為は今は禁止されている!」
「はん!うるせいや。みすみす隊長をアンドレにくれてやるもんか!」
アランが怒鳴り返した。

花嫁を教会に行かせまいと 若者達が酒樽やわら束で道を塞ぐこの行為は 
古い慣習で本気で妨害しているわけではない。
花嫁行列側が若者達に金銭を渡すと 瞬く間に片づけられ行列は進むことが出来る。
けれど道を塞いで皆に迷惑になる上に 金銭を要求するこの悪習は公的には禁止とされている。

今回オスカルの嫁入り阻止に立ち上がった若者は 元フランス衛兵隊を中心に総勢30名ほど。
かなりの人数である。その一人一人に将軍は金貨を手渡す。受け取った者から片づけを始める。
その間もアランとベルナールはもめ続けていた。
アンドレも馬を下りて二人の仲裁に入ろうとしたがとりつく隙がない。

「ほれ、おまえで最後だ」
いきなりアランの襟が後ろから引っ張られた。
ジャルジェ将軍がにかぁと笑い 戸惑うアランの手に金貨を握らせた。
「どっ・・どうも・・」
アランは決まり悪そうに金貨をポケットにしまうと
「しゃあない!将軍直々に金貨をいただいたんじゃ 通さないわけにいかないや。」
そう言って片づけに加わった。

やれやれとアンドレは再び馬に乗ろうとしたその時

ゴンッ

「いっつぅ・・・」

アンドレは頭を抱えた。振り返ると鼻歌歌いながら アランが片づけをしていた。
「アラン おまえなぁ・・・」
アランは肩越しに振り返って にたぁと笑った。

馬車に戻ったジャルジェ将軍にオスカルは
「父上 申し訳ありません。」
そう詫びた。
「何故 あやまる?おまえみたいな年増の花嫁に箔をつけてくれたのではないか。」
馬車の窓から若者達を眺めながら 
「良い部下ではないか。慕われていたのだな。」
そう言って微笑んだ。

馬車はゆっくり動きだす。先ほどの騒ぎの主犯格が泣きそうな顔でこちらを見ているのが
将軍には分かった。オスカルの席からはアランは見えない。

「男として育ち 女らしいことの一つも出来ない娘なのに 
アンドレといいジェローデルといい よくもあれほど惚れ込んでくれたものだ。」
目の前には確かに美しい女性が座っている。
けれど彼らがオスカルの外観だけを愛しているのではないことは将軍には分かっている。

"あの若者も 娘を愛してくれたのか…"

確かアランだったな。一番手を焼いた部下だったはずだが・・・

ふふ・・・将軍が嬉しそうに微笑む。
「何ですの? あなた」
ジャルジェ夫人が尋ねた。
「いや 何でもないのだよ。」

きょとんとしているオスカルと妻に将軍はもう一度
「何でもない。ただ 気持ちの良い風だなと思ってな。」
「そうですわね。本当にいいお天気」
ジャルジェ夫人も馬車の窓から外を眺めた。教会はもう目の前だ。
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