やっと 咲いたその小さなピンクのばらを  レモンは "ナタリー" と名付けた。

「何だって?ばあやが式をあげないだって?」
ハネムーンから帰ってきたオスカルに 侍女達は困り顔で相談した。

オスカルが旅立った後、みんなは当たり前のように ばあやと画家のアルマンの式の準備をしようとした。
ところが
「冗談じゃないよ!こんな老いぼれがウェディングドレスなんか着れるもんかい。みっともない。」
当の本人がそう言って 式は挙げずに署名と届出だけで済まそうとしたのだ。
オスカルに "盛大な式を・・・"と頼まれていた皆は驚き 
とりあえずオスカルが戻るまではと 届出るのを思い留まらせていた。

「わかった。わたしが話してみよう。」
オスカルがばあやのところに行くと アンドレがすでにばあやの説得にかかっていた。

「おばあちゃん。アルマンさんは何も言わないけど 結婚式をしたがっているんだからさ。」
「なんで おまえにそんなことがわかるんだい。」
「顔 見りゃわかるさ。」
「おまえの言うことなんか 当てになるもんかい。したけりゃ自分で言うわさ。」
ばあやは仕事の手を止めず 孫の言うことをうるさそうにしていた。

「ばあや」
「これは オスカルさま」
ばあやはオスカルの方を向いた。
「ばあや どうして結婚式をしないのだね。」
「お許しください。この年であたしは 人様のさらしものになぞ なりたくないのでございます。」
「さらしものって・・・そんな事はないだろう。みんな祝福したいと思っているのだよ。」
「いいえ いいさらしものですよ。こんな老いぼれカップルなんぞ。」
「わたしとて この年で式を挙げたのだ。」
「よしてくださいまし。まったく話が違います。」
もうこの話はここまでとばかりに ばあやは逃げ出してしまった。

残されたオスカルとアンドレは どちらからともなくため息をついた。
「ばあやの気持ちも分からんでもないが アルマンは何と言っているんだ?」
「おれが聞いた話では 始めすごく乗り気だったらしいんだが
おばあちゃんが嫌がっているのを知って ひどく落ち込んだらしい。
実はさっき会ってきたんだが おばあちゃんの嫌がることを無理強いする気はないって
哀しそうに笑っていたよ」
「じゃ 彼は本心は結婚式を挙げたいんだな」
「そうだと 思う。」
オスカルはしばらく 顎に手を当てて考えていた。
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