「オスカル 心配したぞ。どこに行っていたんだ?」
アンドレは少々焦って 声をかけた。
「オスカル?」
見るとオスカルは赤い顔をしている。
「まさか?また、フェルゼンに何か言われたのか?そうなのか?」
アンドレはオスカルの両腕を掴み 顔を覗き込むようにして 問いかけた。

「何でもない。アンドレ。」
「何でもないって…そんな事無いだろ。」
「本当に何でもないのだ。それに」
「それに?」
「何かあっても おまえはわたしをその胸に抱きしめてくれるのだろう。」
「えっ あっ もっ もちろんだよ。」
「なら、何も心配はいらない。」
はっはっはっ…と行きかけるオスカルを アンドレは慌てて追いかける。
「いや、そういう問題ではなくてだな。
おいっ オスカル 気になるじゃないか。ちゃんと教えてくれよ。」

「コホン…」
二人がじゃれていると 父ジャルジェ将軍が咳払いをしながら近づいてきた。
「あまり こういう場で感心したことではないな。」

「旦那さま!」
アンドレは反射的に身を正した。それを将軍はじろりと見た。
「アンドレ、もうおまえはただの従僕ではないのだぞ。自覚を持ちなさい。」
「はい。申し訳ありません。」
アンドレは貴族の位を賜ることになっていた。
これはアンドレが特別ということではない。
この度の戦争で功績のあった人物への報償の一環であった。
アランとナポレオンは准将に取り立てられ、ほかにも何人かの将校が新たに生まれた。
彼らが今後、フランス軍の中核となる。

「これからは夫婦でしっかりはげむのだぞ。」

「…?」

「結婚式の準備をしなければならん。いい加減屋敷に帰って来い。」

「えっ? えぇぇぇぇぇ!」

二人は驚いて 同時に声を上げた。

「おい!どういうことなんだ?何がどうなっているんだ?オスカル」
「わたしにも 何がなんだか…」

まだ あたふたしている二人をしり目に ジャルジェ将軍は続けた。
「これからも、ずっと王家をお守りせねばならん。
ジャルジェ家を途絶えさせるわけにはいくまい。」

「…」

「何故返事をせんのだ。オスカル」
「父上…」
「ためらうことはあるまい。時代は変わったのだ。
いやおまえ達が変えたのではなかったか?」
父ジャルジェ将軍は 温かな目で二人を見つめた。

「オスカル、おまえのしたことは 危険な賭けであった。
責任ある将校としては決して褒められたことではない。だが…」
オスカルの肩に手を乗せて微笑んだ。
「よく やったな。オスカル。」
肩に感じる父の手の大きさと温かさがオスカルには嬉しかった。
「帰って来い。母上もばあやも待っておるぞ。」
「はい、父上。」
オスカルは素直に答えた。

それを聞いた将軍は今度はアンドレの手をとった。 
「おまえには苦労を掛けると思うがよろしく頼む。」
いまだ動揺が収まらないアンドレだが ともかくその手を力強く握り返した。
「前にもお約束しました。ずっとオスカルと共にいると。」
それを聞くと満足気な微笑みを残して ジャルジェ将軍は宴席に戻って行った。

二人きりになるとオスカルはアンドレの温かな胸に飛び込んだのだった。
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