ご機嫌になった一同は酒も進み 口も滑らかなった。
「しかし、おれ達も長い付き合いだよな。」
「ああ もう十二年になるか。」
「おれら 士官学校組は十年だな。」
「あの誘拐事件の時は大変だったよな。」
「そうだな」
ひとしきり思い出話に花が咲いた。チェスの対決の話 雪合戦 川に落ちたことなどなど
懐かしい日々が甦る。今思い出しても笑える話も沢山あって 
マクシミリアンは涙が出るほど笑った。こんなに笑ったのは初めてかもしれない。

「ようし 歌うぞ」
酔ったアランが言うと みんなで当時流行った歌を歌った。
いつの間にか 店に居合わせた人々も声を合わせていた。楽しかった。
マクシミリアンはおおぜいでいることが 楽しいと思える自分を新鮮に思った。
結局 閉店時間まで飲んでいた。
店を出る時 ミシェルはそのままのかっこうで出ようとして アンドレに止められた。
「おい おい 待てよ ミシェル」
立ち上がったミシェルは 上だけ女性で下はキュロットというなんとも奇妙ないでたちだった。
「今 直してやる。」
アンドレの手で口紅は落とされ 髪は後ろに束ねられ 首元はクラバットで隠された。
夢から醒めていく思いでマクシミリアンは見ていた。

店の外に出ると月が冴え冴えと輝いていた。アンドレとミシェルは馬に騎乗し
「また 会えるよな マクシミリアン」
「もちろんだよ ミシェル」
「それまで元気でな」
「ああ アンドレ達もね」
別れのあいさつはしたがなんだか 明日も会えるような気がした。あの頃のように。
そんなはずはないのだが。 帰りの方角が違うベルナールともここで別れた。
だが彼は明日の出立の時また来てくれることになっていた。

マクシミリアンはアランとふたり並んで歩き始めた。
「ねぇ アラン 君知っていたんだね。僕がミシェルのこと好きだって。」
「ああ まあな。」
「ありがとう。彼女を呼んでくれて。」
へへっ アランは鼻の頭をかいた。ちょっとためらったが 
マクシミリアンは思い切って訊いてみることにした。今日は珍しく酔っているのだから
「アラン アランもミシェルが好きなの。」
「ああ まあな。」
「そっか・・・」
しばし ふたりは夜風に吹かれた。火照った頬に気持ち良かった。
「ミシェルは大丈夫。幸せだよね。」
マクシミリアンは下を向いてしゃべった。そして答えを求めるようにアランを見上げて
「アンドレがいるんだから」
そう言った。応えてアランはマクシミリアンの目を見て
「ああ 大丈夫だ。」
まるでマクシミリアンの心を包むように返事をした。
夜空を見上げて"本当に綺麗な月だ。まるでミシェルのように"そうマクシミリアンは思った。
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