司祭が指輪に聖水を降りかけ アンドレに手渡す。
「この指輪はわたし達の愛と忠実のしるしです。」
そう言ってアンドレはオスカルの手を取りその指に一気にはめようとした。

"いっ!? オスカルゥ〜たのむよ〜"

アンドレの泣きそうな顔を見るとオスカルは満足気にニィと笑った。

"そう簡単に行くと思うなよ"

オスカルはツンと澄まして わずかに曲げていた指を伸ばして指輪を受け入れた。
傍で一部始終を見ていたベルナールは笑いを堪えていた。

"あ〜あ やっぱりな"

結婚指輪を一息にはめられなかった新郎は新婦の尻に敷かれるという。
ベールの陰でクスクス嬉しそうなオスカルの顔を見ると アンドレは怒る気がしない。

"さっきは 泣いていたのに もうこんないたずらっ子になるんだから・・・"

"氷の花"と皆は言うけれど 本当はこんなにも表情をコロコロ変えて 感情豊かで熱い
"可愛い女(ひと)"なのだとアンドレは思う。

今度は同じようにオスカルが指輪をアンドレにはめる。
「この指輪はわたし達の愛と忠実のしるしです。」
オスカルのほっそりと美しい手に自分の手を握られる。
アンドレはまだニコニコ嬉しそうなオスカルに意地悪する気にはなれない。

指輪の交換が済むと二人はジャルジェ夫妻 ばあや 立ち合い人のシャトレ夫妻と共に署名室に入り
小教区帳簿に署名をする。司祭も二人の結婚を認めた聖職者として名を記す。

署名が済むと再び皆の前に戻り司祭の祝福を受け聖歌が歌われた。
司祭が十字架を切り新たに夫婦となった二人と参列者一同を祝福し 結婚式の終了を宣言した。

これ以後アンドレとオスカルは  "死によってしか切ることの出来ない金の糸" で結ばれることになる。

二人は祭壇に深くこうべを垂れた。そして並んで皆の方に向き直った。
そっとアンドレはオスカルを見て腕を差し出す。ほんの少しオスカルは戸惑ったがその腕に手を添えた。
二人は歩き出す。皆が祝福の拍手を送り オルガンの音色が晴れやかに響き渡る。
参列者の祝福の嵐の中 ゆっくりと二人は聖堂の入口へと進む。
今まで女性に腕を貸すことはあっても 借りることなどなかったオスカルは気恥ずかしくてならない。
俯き気味にいつもよりだいぶ小股で歩く。
そんなオスカルの様子がアンドレは可愛くて仕方がない。
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