聖堂を出ると 一段と祝福の声が大きくなった。
眩しい外の光に慣れてみれば 驚くほど多くの人達が自分達を迎えてくれていた。

人々のもとへと聖堂の階段を下りて行く。
「わああ!!素敵・・・・」
一段と大きな声に目を向けた。
「マリー・テレーズさま!?」
オスカルは驚いて近寄った。
「いけません。まだ町中は危険でございます!」
「ごめんなさい。オスカル でもどうしてもあなたのウェディング姿が見たかったの。」
顔を下向きにして上目使いで相手を見て口元に手を添える仕草は"ママン・レーヌ"にそっくりだ。

「まあまあ オスカル わたしもジェローデル少佐も護衛に付いているから。」
「フェルゼン!?それにジェローデル少佐 ルイ・ジョゼフさま!?」
ルイ・ジョゼフ殿下は少し拗ね気味だ。
「オスカル もう少し 待っててくれたら良かったのに。」
「殿下。殿下にはわたくしなどより ふさわしいプリンセスがいずれ現れましょう。」
腰をかがめオスカルはルイ・ジョゼフに話しかけた。
ジョゼフは素早くオスカルの頬にキスをすると耳元で囁いた。
「あのね オスカル ぼくはアンドレよりうんと若いんだ。
アンドレが年を取って先に逝ってしまったら ぼくの妃になってね。」
オスカルは返事の代わりに微笑んだ。

オスカルのドレスをつんつん・・引っ張る者がいる。
「ル・ルー!」
そこには来れないと思っていた姪の姿があった。
「どうして ここに!?3日もかけて きてくれたのか・・・!!
ああ嬉しいけれどダメじゃないか!姉上達は知っていらっしゃるのか?」
「心配はいらないよ オスカル おれがフランソワとジャンに頼んで連れてきてもらったんだ。」
アンドレの声にオスカルは振り返る。
「どうだ?俺のサプライズ」
「アンドレ・・・!!」
オスカルの瞳から涙が溢れる。オスカルをそっと抱き寄せ 
ル・ルーの後ろのボロボロのフランソワとジャンに目で礼をした。
二人は疲れた顔に力ない笑みを浮かべ手を振った。後で聞けばなかなかの珍道中だったらしい。

「オスカルお姉ちゃま ル・ルーがお花をあげるから お姉ちゃまのブーケはばあやさんにあげてね。」
「えっ!?ばあやに?」
言われてオスカルのベールやドレスの裾をさばいていたばあやがびくりとした。
「ダメ ダメ ちゃんと分かってるんだから。
画家のおじさん オスカルお姉ちゃまじゃなくて ばあやさんばっかり見てるもん。」
言われて老齢の二人は小さな体を増々縮めてしまった。

「そうだったのか おめでとう ばあや」
「いえ あの・・・ お嬢さま まだはっきりとお返事したわけではないのですよ。」
オスカルの差し出すブーケをばあやは受け取るのをためらった。

「おばあちゃん 今までありがとう。おれ達幸せになるよ。
もう子供じゃない。二人でしっかり生きて行ける。」
アンドレはオスカルを抱きしめて
「だから 心配しないで。今度はおばあちゃんが幸せになってよ。」

自分を見下ろす孫のたった一つの瞳は限りなく優しい。まるで自分を包むように。

"いつの間にか 小さなアンドレは 大人になっていたのに・・・"

自分はどうして 気づかなかったのだろう。

"もう わたしが必要ではなくなってしまったのだと 認めたくなかったのかもしれないね"

ばあやはしんみり俯いた。急に元気のなくなったおばあちゃんに
アンドレは驚いて手をかけようとしたが その手は画家のアルマンに止められた。

アルマンはそっとばあやに寄り添いこう言った。
「あたしには あんたが必要だ。こんな老いぼれだが あんたも年だし 妥協してくれんかな?」
「なんだって!あたしのどこが年だってんだい!」
急に元気を取り戻し
「仕方ないね。あんたが寂しいんなら 一緒にいてやるよ。」
わざと やれやれと言う風に言い放った。

「では 受け取ってくれるね。」

オスカルの差し出すブーケを今度は素直に受けた。

手の中のばらはとってもいい香りがする。その花に顔を埋めるようにしてばあやは泣いた。
「もったいのうございます。あたしなんかにこんな・・・」
「次の花嫁はばあやだ。盛大に祝おうじゃないか。」
「そんな そんな・・・お嬢さま・・・」
ついにはしゃがみ込んでしまったばあやを アルマンが優しく支える。

"今まで 本当にありがとう おばあちゃん。幸せになってほしい"

これ以上言うと増々泣かせてしまいそうなので アンドレは心の中でそうつぶやいた。
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