ジェローデルは少し離れてこの様子を見ていた。護衛である彼は常に周囲に注意を払らわねばならない。

"わがシルフィールド" 
あなたはついに その羽を休める暖かな胸にたどり着いたのですね。
確かにあなたを感じても 掴みどころのない風のように 
あなたはわたしの手をいつもすり抜けてしまいました。
時にいたずらなつむじ風のように 時にあたたかな春の花薫る風のように 
荒れ狂う嵐のようだった事も 微かに震える微風であった事も・・・

"風を掴まえるなど 出来はしないのだと そう思いたかった。"

"けれど 本当はあなたは彼を求めて 誰にも捕まらぬように 吹き抜けていたのですね"

結局 ジェローデルは一言もオスカルと話さず フェルゼン達と帰っていった。

ふと 風がジェローデルの髪を揺らす。ばらの香がする。
そっと風の吹く方を振り返るとオスカルのベールが舞い上がり 
その陰で静かにこちらを見つめる青い目と視線がかち合う。
オスカルは静かに腰をかがめ優雅にお辞儀をした。ジェローデルも胸に手を当てて礼を返す。
顔を上げた二人は互いに自然と笑みがこぼれた。それで十分だった。

ジェローデルは踵を返し 職務に戻る。

"生涯なにがあっても・・・だれのためにでも・・・わ・・・わたしは・・・ わたしはドレスは着ん!"

あなたの言葉は嘘ではない。
わたしにはその後に "アンドレのため以外は!" と言う言葉が続いていることがわかっていました。

あなたが いたいたしかった。
だからあなたのために "彼ごと" 愛して差し上げても良いとさえ思い詰めていました。

"愛はいとしい人の不しあわせをのぞまないものだが・・・もちろん・・・"

今問いかけられても わたしは迷うことなく答えるでしょう。

"もちろん"

それがわが身を引き裂くほど苦しくとも あなたが不幸である苦しみよりはずっとずっと良いからです。

風が又 いたずらをする。愛しい人の香りと笑い声に 
風を掴まえた幸運な男の声を重ねて ジェローデルの耳元を吹き抜ける。
ふふ・・・と苦笑しながら 彼は今度は振り返らなかった。
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