その後ジャルジェ家に場を移して大宴会が開かれた。
大広間だけでなくテラスに続く窓も 全て開け放し庭も使って行われた。
アランが庭先の方が兵士達は気楽だと言ったからだ。
勤務の合間をぬって駆け付けてくれる兵士も多く 予想以上の人出となった。
また バスティーユの女神の結婚式と聞いて 覗きにきた市民にも気軽に庭に入ってもらった。
「アラン達に相談して良かったな」
オスカルは皆が楽しそうに過ごしているのを見て嬉しそうに言った。

「踊ろう オスカル」
アンドレがオスカルの手を取る。婚礼のダンスは新郎新婦から始まるのが習わしである。
オスカルは次に介添い人のベルナールに手を取られる。
花嫁は次々に祝福のダンスを申し込まれるのだ。
この新郎新婦のダンスをきっかけに自然と踊りの輪が出来ていく。

料理が振る舞われ ジャルジェ家自慢のパティシエのレミのケーキが 
ワゴンに載って登場すると歓声が起きた。
シュークリームに縁どられた大きい四角いスポンジケーキの台の上に 
生クリームで化粧された輝くベルサイユ宮殿が建てられていた。
そのコの字の建物の中 大理石の中庭に当たる部分には 
メレンゲを焼いて作ったアンドレとオスカルのウェディングドールが手をつないで立っていて 
その前に小さなシュークリーム2個が置かれている。
さらにその前にfelicitations pour votre mariage!(ご結婚おめでとうございます!)と
チョコでメッセージが添えられ その周りに色とりどりの飴細工の透き通ったばらが飾られている。

「ありがとう レミ へぇ 窓の所は青い生クリームで 窓枠はチョコか・・・」
オスカルは見事に再現された宮殿に驚いた。皆も集まって来て感心している。
「見て、見て、オスカルお姉ちゃまがいる!」
「ル・ルー隣にいるのはアンドレだね!」
ル・ルーとモーリスは興奮しながらケーキを観察している。
良く見るといくつかの窓にはチョコでシルエットが描かれている。人だったり 花だったり 犬だったり。

皆が見守る中 アンドレが自分の人形の前に置かれたシュークリームを摘まむとオスカルの方を向いた。
「オスカル」
オスカルは恥ずかしそうに 目を閉じて口を開けた。でもなかなかアンドレはお菓子をあげない。
焦れてオスカルが口を閉じて目を開けると アンドレはお菓子を持ったままクスクス笑っていた。
「指輪のお返しだ。」
「なんだと!」
オスカルが怒鳴ったその口にアンドレはポイッとシュークリームを入れた。
「うっ」
オスカルが咽喉を押さえたのでアンドレは心配になってあやまった。
「ごめん オスカル 大丈夫か・・・水を持ってくる。」
行きかけるアンドレの肩をオスカルは押さえ
「大丈夫だ ほら!」
振り返ったアンドレの口に オスカルは素早くシュークリームを取って入れた。
不意打ちを食らって驚くアンドレに
「美味しいだろ。」
オスカルは豪快に腹を抱えて笑った。

「これ!オスカル 花嫁がはしたない・・・」
おくさまに怒られて
「そうだった!わたしは今 女だった!」
はっとしているオスカルに今度はみんなが笑った。

「さあ オスカルさま アンドレ」
レミが青いリボンの付いたナイフを手渡す。二人でそれを持ってケーキを切り分け、皆に振る舞うのだ。
「何だかもったいないですね。」
ロザリーは素敵なベルサイユ宮殿が少しずつなくなっていくのが寂しいようだ。でも一口食べると
「あら おいしいわ。お代わりしてもいいかしら。」
うふっと笑って言った。

「オスカルお姉ちゃま ル・ルーのは 赤いばらものせてね。」
「いいとも ほら」
ル・ルーが飴で出来たばらをかじると 繊細に薄く伸ばされた飴はパリンと音を立てて砕け 
口の中に甘い味とばらの香りが広がった。
「いい香り・・・」
「えっ 飴に香りがついてるのか?」
「ええ オスカルさま ばらの花芯の部分を 
ばらのリキュールを仕込んだボンボンにしてあるんですよ。」
レミがいたずらっぽい目をして答えた。
「おい!アンドレ 私の分のばらも取って置いてくれ」
オスカルが慌ててアンドレに頼んだ。
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