「アンドレ 到着されたようだ。」
アランがケーキを配っているアンドレに報告にきた。
「そうか ありがとう おまえもほら・・・」
アンドレは飴のばらをアランの口に入れた。
アランは口の中で砕けて上等なばらのリキュールが溢れてくるのを感じて
「ほおぉこいつはいいや。」
そう言いながら舌なめずりをした。アンドレはケーキもとりわけアランに渡した。
「色々 ありがとうな。」
「おっと 礼を言うのはまだ早いぜ。」
アランの言葉の真の意味をアンドレが知るのはもう少し先。

司会者が奏者の到着と演奏の始まりを告げると 庭に置かれたピアノの周りに人が集まった。
モーツァルトが拍手で迎えられピアノに座る。
奥からしずしずと黒髪の美女が現れると拍手の音は一段と大きくなった。

「ああ まさか 本当にあなたに来ていただけるとは・・・」
オスカルは自分達の  "真の生みの親" であるこの美女に敬意を込めて握手を求めた。

彼女は微笑み 中央に立つ。モーツァルトに頷くと彼も頷き返し ポロン・・と鍵盤に指を落とす。

スゥと下から立ち上るように滑らかで豊かな歌声が 
天に上りやがてそれは地に舞い降りて広がり モーツァルトのピアノと絡まり躍る。
そしてその舞は聞くものの心に 愛し合う喜びを自然とわき立たせるのだ。
彼女のアリアは庭を超えて屋敷の外にまで広がり アンドレとオスカルを限りなく祝福した。

「ありがとうございました。」
感極まって アンドレは上ずりながら礼を述べた。
「あらあら まだお礼は 早くてよ。」
そう言うと彼女はアンドレの手に何かを握らせ 何やら耳元で囁いた。
アンドレは驚いて彼女を見ると 彼女はいたずらな笑みを浮かべていた。
手の中のそれをアンドレは嬉しそうに眺め
「ありがとうございます。オスカルがどんなに喜ぶか・・・」
その笑顔を黒髪の美女は微笑んで眺めた。
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