宴は夜遅くまで続いた。提灯が飾られ 食卓のろうそくの光が煌めく。
盛り上がりが最高潮になった頃を見計らって そっとアンドレとオスカルは会場を抜け出した。
ロザリーとばあやがオスカルの部屋で待っていてくれて ドレスを脱ぐのを手伝ってくれる。
「なんか もったいないですね。もっと見ていたかったですわ」
ロザリーがため息交じりに呟く。
「本当でございますね。こんなお綺麗な花嫁さまは
今までもこれからもお目にかかれませんでしょうからね。」
「ふふ そんなことはあるまい。こんな年増の大女より美しい娘など沢山いるではないか」
「いいえ お嬢さまより美しい者などおりませんよ」
ばあやは コルセットを外しながら答えた。

通常のものよりだいぶ緩いとはいえ、慣れないコルセットを一日付けていたオスカルは解放されると
うーんと伸びをした。今度はいつも軍服の下に付けているコルセットをはめる。
服もいつもの普段着だ。別室でアンドレもいつものラフなシャッツ姿に着替えた。

「それではオスカルさま。見つからないように頑張ってくださいね。」
ロザリーに見送られて二人は部屋を出て 辺りを伺いながら階段を上り
最上階の廊下の壁を探り 隠し扉を開けて中に滑り込んだ。

「ここなら見つかるまい。」
オスカルは自信有りげだ。
「甘いぞ オスカル 男のジェラシーの恐ろしさをおまえは知らない。」
アンドレは隠し部屋に入っても 警戒を解いてはいない。
確かにここは屋敷の者でもほとんど知らない場所だ。秘密にしているというわけではないのだが 
特に使われていないし めったに人がくるような場所でもないので 自然と忘れられていたのだ。
アンドレとオスカルも 子供の頃遊んでいて偶然見つけたくらいなのだから。

この日の為にアンドレはこっそりこの部屋の掃除を済ませ 暖かな毛布やラグを運びこんでいた。
暖炉は使えない。そんな事をすればここにいると知らせるようなものだ。
二人で毛足の長いラグの上に座り一つの毛布に包まる。
アンドレの肩にオスカルがもたれるとアンドレもオスカルの上に首を傾けた。

屋敷の外の賑やかな騒ぎがたった一つの天窓から聞こえてくる。
月の光がそこからさし 飾り気のない室内を微かに照らす。

"何もいらない。この温もりさえあれば"

オスカルは本気でそう思った。アンドレの温かい体温が感じられればそれだけでいい。
目を閉じて じっとその幸せを噛みしめる。アンドレもまたオスカルの髪にくちづけしながら目を閉じた。
しばらくじっと目を閉じて お互いの存在を愛おしむように寄り添っていた。

二人は目を閉じていたので 天窓にかかった黒い影に気が付かなかった。
    前へ    ダンドリBOOKの世界    次へ
inserted by FC2 system