こうしてばあやもナタリーも次々に変わるダンスのお相手に疲れた頃 
大きなシュークリームのタワーが会場に運びこまれた。
「うわぁ!よくもこれだけ 積めたものだ」
天井につきそうなくらい積み上げられたシュークリームを見上げて オスカルは驚嘆した。
「なにせ 大人数ですからね。」
このタワーを作ったパテシェのレミは得意げだ。
このシュークリームのタワーは クロカンブッシュと呼ばれるお菓子。

この巨大なタワーを左右から2組の新郎新婦が木槌を持って割り始める。
「ふふっさすがは ばあやだな。」
小柄な体でパワフルに手際よくシュークリームを分けていく。
それを何人かの厨房担当者がお皿に受け取り、クリームやフルーツを綺麗に飾り皆に配る。
この辺の連携の良さはジャルジェ家ならではだろう。

「うん。レミのお菓子はやっぱり最高だ!」
アンドレは嬉しそうに食べている。 クロカンブッシュはその高さが高いほど祝福が集まるとされている。

"おばあちゃんもレモンもナタリーも みんなに愛されているもんな。"

アンドレはみんなが祖母を大切に思ってくれているのが嬉しかった。

「アンドレ!おまえはだんなさまに 大切な跡取りさまを差し上げなきゃいけないんだから もっとおあがり」
ばあやが2皿目をアンドレに渡す。
「えっ わ…分かったよ…」
アンドレはにやにやしているみんなの視線に恥ずかしげだ。

"もう おばあちゃんったら いつまでも 子ども扱いだ"

ばあやは何だかんだと アンドレに沢山食べさせようとしてきた。

"おまえはお嬢さまをお守りしなきゃいけないんだから 大きくおなり"

そう言って 自分の分を削ってアンドレに分けてくれた。
こんなに大きくなった今でも ばあやにはまだまだ物足りないらしい。
こんどは子作りをネタに食べさせてくる。

シューはキャベツと言う意味。赤ちゃんはキャベツ畑から生まれてくるんだよ。
そんな話を昔おばあちゃんがしてくれたなと アンドレは食べながら思い出していた。

その夜は皆多いに歌って踊って 飲んで食べて はしゃいで。
アンドレとオスカルも身分を忘れて 平民の夫婦のような砕けたダンスを踊った。
あんまり楽しくって 時間の経つのをみんな忘れた。
気がつけば、高齢のばあやとアルマンは仲良く椅子に座ったまま 寝てしまっていた。
アンドレがアルマンを、オスカルがばあやを抱いて レストランの2階の宿泊客用の部屋に運ぶ。
侍女が何人かついて来てくれて ばあやの着替えをしてくれた。

会場に戻るとレモンとナタリーもどこかに姿を消していた。
他に何人か部屋に引き上げたらしく 少し人数が減ってはいたが まだまだ皆陽気に騒いでいる。
オスカルとアンドレも今夜の宿に向かうことにした。ジャルジェ家の使用人を始めとする参列者は
今夜このレストランの宿と近在のホテルに泊まることになっていたが 
アンドレ達は離れた所に宿をとって 明日の昼過ぎに屋敷に戻ることにしていた。
皆を昼過ぎまで休ませてやるためである。
ル・ルーも今日はモーリスの所に泊まることになっていて 
夕方モーリスの家の迎えの馬車に乗って行った。
今夜屋敷は執事と数人の上級職使用人、年老いたもの達が留守を守っている。

出際にもう一度ばあやの様子を見に行くと アルマンの横で微笑みながら眠っていた。
「おやすみ ばあや」
オスカルがそっと囁くように言って静かにドアを閉めた。
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