「わーおめでとう!」
「何だ!おまえ達!」
突然 沸き起こった拍手と現れた大勢の同僚に レモンもナタリーも 抱き合ったままビックリした。

「いやもう じれったいんだから」
「ほんと いい年してさ。」
若いお針子達が言うと
「いい年だから なかなか 素直になれないんだよ」
年配のやもめ男が言う。
「おれも かあちゃんには もっと優しくしてやりゃ 良かったと・・・」
「あんたの ことなんか 今はどうでもいいよ。」
おっさんの言葉をおばさんがぶった切る。

「おめでとう。レモン」
アンドレがスマイラックスの葉をレモンに渡す。
「おいアンドレ おれの大事なスマイラックス 千切ってきたのか」
そう言いながらも嬉しそうに受け取った。

さて困ったのはナタリーだ。いったいどんな顔をすればいいのだろう。
恥ずかしくてレモンの胸から 顔を上げられなくなってしまった。
感動の涙はとうに引っ込んでいる。
そんなナタリーに オスカルからとどめの一言がかかった。

「おめでとう。レモン ナタリー 盛大に祝おうじゃないか」

万事休す!ああ 明日は我が身とはこの事か!

戸惑うナタリーに構わず 皆勝手に盛り上がっている。
頼りのレモンもデレデレ頭をかいて 嬉しそうに冷やかされている。

"まったく 男っていうのは!"

「ナタリー 素敵な花嫁姿を 見せておくれ」
オスカルの無邪気な気遣いがナタリーを追い詰める。
「はい オスカルさま」
ナタリーは絶望しながらレモンから顔を上げて小声で答えた。
そんな様子をみんなは照れてるのだと思い 微笑んで見ている。

"何が 素敵な花嫁姿だよ こんなばあさんがウェディングドレスなんか着たらいい笑い者だよ"

我が身に降りかかってようやく ばあやさんの気持ちが分かったナタリーである。

実は結婚式を上げないと強情を張るばあやを 一番攻めていたのはナタリーである。
「あんた ふだん あんなにお嬢さまが大事と言っておきながら 
そのお嬢さまの言葉に逆らうのかい!この恩知らず!」
「誰が何と言おうと 嫌なもんは 嫌だよ!」
「せっかく お嬢さまも旦那さまも 皆が祝福してくださるんだ。嫌がるなんてばちが当たるよ!」
ついには 取っ組み合いになりそうだった。

そんなことがあった手前 嫌だとは言えずナタリーはこの場で皆の盛大な拍手の中
結婚式を挙げる約束をするはめになった。驚いたのは レモンが嬉しそうだったことだ。
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