「ひどいわ!オスカルお姉ちゃま 置いていくなんて!」
突然、ル・ルーが飛び込んできた。
「ごめん ごめん だが、ラテン語の授業はレディーのなるためには必要なことだからね。」
オスカルは謝ったが 本当はル・ルーを置いてきたかったのだ。
この子がいると何かと厄介な事になりそうな気がするから。

というのもオスカルはばあやに 最高に幸せな式を挙げてほしいと思っていた。
そのためにはウェディングドレスは ばあやが着ていて嬉しいものでなくてはならない。
ナタリーと二人で作らせては きっと地味で控えめなものにしてしまうだろう。
ベルタン嬢なら自分の時のように ばあやの自分でも自覚していない本心までも見抜いて
最高のドレスを作ってくれると期待したのだ。

けれど 何せ頑固者のばあやのこと。少しでも持って行き方を間違えるとへそを曲げてしまう。
だからなるべく不安要素はなくしておきたかったのだ。

「びぇーっ ひどい!ひどいわ!」
ル・ルーはすっかり怒って今度はアンドレに当たっている。
「はは・・・ごめん。でもいい時に来たよ。」
ほらとアンドレはすっかり美しくなったばあやとナタリーの方を向かせた。

「わ…あ…!!うるわしー!うるわしいわ!」
「そっ…そうかい…」
案外素直にばあやは賛辞の言葉を頬を染めて受け取った。
子供の真っ直ぐな褒め言葉に 熟女たちはますます気分が良くなったようだ。
大はしゃぎであれこれドレスを試着する。新郎達も参加して大変な騒ぎだ。

小さな小花の柄。オーガンジー。繊細なレース。フリルにリボン。赤 青 水色 淡い紫 
よくもこれだけと思うほどいろいろなドレスがあった。

オスカルとアンドレはこの騒動を壁際で見ていた。
「おばあちゃんが自分のことで こんなに夢中になるのを初めて見たよ」
ふふ…とアンドレが笑いながら言った。
「ああ そうだな。だが自分のためだけではないのだぞ。」
オスカルは優しい目をした。
「大好きな人に 美しい姿で嫁ぎたい。愛する人のために美しくありたいのだ。」

「おまえも そう思ってくれたのか?」
アンドレの問いに オスカルは意表を突かれた。
「一般的な話だ。わたしの事は今はどうでもいいだろう」
そっぷを向いてしまったオスカルに アンドレはクスッと笑いながら 肩を抱いて
「ああ そうだな。おれは最高に美しい花嫁の夫になれたわけだし。」
そう言った。オスカルは夫の腕の中で赤い顔をしている。

「オスカルお姉ちゃま これでどうかしら?」
ル・ルーの明るい声がする。どうやら決まったようだ。
ばあやは淡いピンクに小花のモチーフのレースがふんだんに使われたドレス。
小柄な体が一層丸っこくなってしまうが それがとても可愛らしい。
ナタリーもばあやよりはやや濃いが それでも薄めのピンクにバラのモチーフがあしらわれたドレス。
並んだ姿も愛らしく春の花嫁にふさわしい。

「いいじゃないか。とても似合っている。」
オスカルに言われて 二人は嬉しそうに頬を染めた。
普段の二人からは想像できないくらい、清純な初々しい感じだ。

「意外なものだな。あんな可愛いドレスがおばあちゃんに似合うなんてな」
アンドレが小声で言うと耳ざといル・ルーは
「あら 年をとったら 可愛いものが似合わないなんて偏見だわ。女はいつまでも乙女なのよ。」
おしゃまに言った。
「ふふ…そうだな。」
アンドレは微笑んだ。
    前へ    ダンドリBOOKの世界    次へ
inserted by FC2 system