夜が更けると アランはさりげなく外を見るふりをして 通りに面した窓辺に座った。
そして、そっと 窓から下を覗くと カンテラを振るのが見えた。ラサールだ。
アランは手にした燭台の灯りを手で 何度か隠したり かざしたりした。
ラサールはそれを見るとカンテラを振って合図をし 帰って行った。

通りにあやしい人影はない。侍女たちもアランの行動を見とがめた者はいないようだ。
ほっとアランは息をついた。これで衛兵隊のみんなは安心してくれるだろう。
アランがさっき送った合図は3人の無事を知らせるものだからだ。

始めこの屋敷に隊長を運び込んだ時、アランはまさか監禁されるとは思っていなかった。
十分な治療が受けられる環境に隊長が置かれたことにほっとして、
ひとまず落ち着くとアランはこのことを皆に知らせようと屋敷を出ようとした。
「どこに行くのかね。」
腕組みしながら 大柄な男が声をかけてきた。
「隊に戻ります。皆が心配しますから。」
「なら、わしらが知らせてやる。あんたは大事な隊長さんに付いていればいい。」
「いえ、おれが直接伝えて すぐに戻ってきます。」
そう言うや駆け出そうとしたのを どこから現れたのか 二人の男が両脇から押さえ込んだ。
「なぁ あんちゃん 人の親切は素直にきくもんだ。」
そう言われて 自分が囚われの身になったことに気がついたのだ。

ユラン伍長は流石に気が利く。
「ほれ ちゃんと伝えてやったぞ。」
その証拠だと言わんばかりに アランに投げられたユラン伍長からの手紙は
やはり読まれた痕があった。その手紙は文面こそ オスカルに読んで聞かせたそれだが 
中に秘密の暗号が組み込まれていて この伝言をしに来た者の後をつけさせるから 
出来るだけ通りに面した窓に立ってくれそう書いてあった。

アランは慌てることなく さりげなく窓辺に立った。
遠くの方にラサールが見えた。彼はアランに気が付くと頷いてみせた。
それにアランも頷き返した。これで ユラン伍長たちに隊長の居場所が伝わるだろう。
そして、今後この窓辺を介して やりとりが行われることになったのだ。

外部とのつなぎが取れたことに ひとまず安堵はしたが 
まだ 敵か味方かわからない屋敷の中で
自分一人で隊長とアンドレを守らなければならないことには変りはない。
しかも自分は今肩を痛めていて 十分に戦える自信がない。

アランも不安な気持ちで時を過ごしていた。
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