「今、来客中だが 彼らももしかしたら 君の頼みごとに関わりがあるのかな。」
「? その客とは?」
「ロベスピエールとカミーユ・デムーランだ。」
ニヤリと笑った。
オスカルは驚きと喜びをすぐさま顔に浮かべたが 
ラ・ファイエット候とリオネルは渋い顔であった。
「彼らは二人とも ガチガチの共和派ではないか?
オスカル この男はそういう連中の仲間なのか。」
「だから来たのだ。わたし達はついているぞ。ジルベール。」
ふふふ…と笑うと オスカルはさっさと隣の部屋に入ってしまった。

室内には なるほど ロベスピエール、サン・ジュスト そして見知らぬ男がいた。

"彼がカミーユ・デムーランか"

彼らは落ち着いた様子でオスカルを迎えた。

「声が聞こえたよ。ジャルジェ君。」
ロベスピエールが握手を求めてきた。その手をオスカルも握り返す。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」
「友人を紹介しよう。カミーユ・デムーラン。
ぼくとベルナールと彼はルイ・ル・グラン学院の同級生だ。」
「よろしく デムーラン殿。」
「カミーユで構わない。お噂聞いておりましたが まさかこれほどの美貌とは。」
少し、頬を紅潮させて カミーユは手を差し出した。
「あなたの『自由なフランス』はなかなか 耳が痛かったよ。」
オスカルは冗談めかせて言いながらカミーユの手を握った。
「しかし、だからこそ あなたは信頼に値すると感じた。」

オスカルに続けて入って来たラ・ファイエット候も一同には歓迎的に迎えられた。
ロベスピエールはもちろん カミーユとも候はパレ・ロワイヤルで知り合っていたのだ。

その後も初対面の顔の挨拶や、旧交を確かめ合う言葉が続き、
ロザリーがお茶を振る舞う頃ようやくそれが済んだ。

「今日 皆に頼みたいこととは、
ルイ16世陛下の広報官になってほしいということなのだ。」
単刀直入に切り出したオスカルの言葉に ロベスピエールとカミーユは同時に立ち上がった。
「何を言い出すんだ!我々に王の犬になれというのか?」
「そうではない。座りたまえ。」
渋々ながらも二人は座った。

「あなた達は今のフランスの現状をどう見る?」
オスカルの問いに二人は返事に窮した。
サン・ジュストが静かに口を開いた。
「国民議会が主権を取ったとはいえ まだ完全ではない。
しかもまだ2ヶ月にも満たない。今のフランスの現状は我々のせいではない。」
その発言に力を得て カミーユが叫んだ。
「その通りだ。むしろ君たち貴族のせいだろう。」
「では、君たちはこの現状を変えうると?」
今度はロベスピエールが代わって答えた。
「もちろんだ。そのためにぼくらは日々働いている。」
「確かに 連日議論を戦わせているようだが それは誰のためだ?」
「決まっている。民衆のためだ。」
「なら、何故 まずは彼らを救わない?」
「どういう意味だ。」
「君らが 理想に燃えている陰で 民衆は次々餓えて死んでいるということだ。」
「今は仕方ない。憲法が制定され 国政が安定すれば…」
「それは いつだ。それまで 民衆が耐えられるとでも?
各地では農民の暴動が相次いだ。収穫の大事な時期にだ。
それが少しはましになったかと思えば 
今度はパリ市民1500人がベルサイユに直談判しようとして 国民衛兵隊と衝突したではないか。」
「では聞くが君にはそれらを解決する方法があるというのか?」
カミーユはオスカルをキッと睨んだ。
「ある。そのためにわたしはここに来たのだ。」
オスカルはにやりと笑った。

オスカルの計画を一通り聞いたロベスピエールはしばし考えていた。
「いずれは 君たちの理想とする社会が実現するべきだとは思う。
けれど 今の民衆に必要なのはパンなのだ。安心して暮らせる社会なのだ。
民衆のための改革であるならば 彼らに合わせて段階を踏むべきだとわたしは思う。」
オスカルの言葉をロベスピエールもカミーユも静かに聞いている。
サン・ジュストだけはニヤニヤ不敵な笑みを浮かべていた。

「まずは 生活の改善、それから、教育という段階を踏むべきだろう。
でなければ 選挙で候補者を選ぼうにも 正しく選ぶことも出来まい。
そうしなければ人気のあるペテン師ばかりが議会に集まることになってしまうぞ。」
その事については ロベスピエールも実は心配していた。
さきの三部会議員選挙においても その人物の人となりより 
知名度やイメージが大きな力を持つことを実感していた。

「とはいえ、ジャルジェ君。だからと言って 
はいそうですか とルイ16世陛下を認めるわけにはいかない。
現に彼はこれまでフランスを変えることができなかったではないか。」
「そうだ。今まで貴族達の圧力で陛下は改革を何度も断念させられてしまった。
が、今は状況が変わったのだ。」
「なら、陛下に会わせてくれないだろうか?直接会って確かめたい。」
「おれもだ。陛下の広報を預かるのなら 陛下を知らなければ話にならない。
おれは自分の意思で 自分の信じる記事を書く。だから、陛下の広報官にはならないが 
陛下の言うことが正しいのであれば 喜んで民衆に紹介しよう。」
ロベスピエールに続き カミーユもそう言い添えた。

「君らの言うことはもっともだ。だが…」
オスカルはラ・ファイエット候を見て尋ねた。
「ジルベール これだけの人数が秘密裏に王に会うことは可能だろうか?」
「正直 無理だな。」
「そうか… 今はまだ このことは伏せておきたい。
オルレアン公やプロバンス伯に知られたくないからな。」

「なら、この話はナシですね。」
サン・ジュストが口をはさんだ。
「貴族など信用できない。まして 王など。」
彼は終わりだと言わんばかりに 立ち上がった。その肩をアンドレが押さえて椅子に戻した。
「手はあるぞ。」
アンドレはサン・ジュストの肩を押さえたまま続けた。

「王はよく 一人になりたくて ベルサイユ宮殿の屋上に上られた。
あそこでなら見つからずに会うことが出来ると思う。」
「そうか その手があったか!」
オスカルの顔が明るく輝く。
「よし決まりだ。 ジルベール このことを王に伝えて約束を取り付けてほしい。」
「わかった。なるべく急ごう。」
皆は互いの連絡法などを確認し 握手を交わした。
「すべては 民衆とフランスの輝かしい未来の為に!」
誰からとなく そんな言葉が出て みな復唱した。

「では これで失礼する。」
リオネルが馬車の到着を告げると オスカルは立ち上がりフードを目深にかぶった。
「オスカルさま もう行かれてしまわれるのですか?
まだ、何もお話しできていませんのに。」
オスカルはロザリーをぐっと引よせ抱きしめた。
「すまない ロザリー。今はまだ ゆっくりもできない。
だが 少しの辛抱だよ。すぐに大手を振って会いに来られるようになる。」
「約束してください。オスカルさま。」
「ああ、約束する。」
もう一度 抱く腕に力を込めてから オスカルはロザリーを放した。
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