こうした動きに 王の敵達は気が気ではなかった。
ことにオルレアン公はこのまま王の立場が安定していけば
まず自分に王座がまわってくることはないだろうというだけに 焦りを隠せなかった。
そしてその焦りはとんでもない計画を思いつかせたのだ。

10月5日未明、怪しげな女達がパレ・ロワイヤルに集まっていた。
その一団をアランとベルナールは密かに見つめていた。

「計画は抜かりなく進んでいるな。」
「へぇ、大丈夫でさぁ。」
「それにしても もう少し何とかならんのか?女に見えんぞ。」
「帽子を目深にかぶれば ばれませんて。」
見れば女と思ったのは全員男である。

「前回はラ・ファイエット将軍に蹴散らされてしまいましたからね。」
「せっかく 市民をあつめたのにな。
だが今度は大丈夫だ。さすがに女達には手は出せないだろう。」
「娼婦たちは信用できるのか?」
「あんな奴ら信じられるもんですかい。彼女らにはこう言ってありますんでさぁ。
『いい稼ぎになる仕事がある。何人か仲間を誘って来い』とね。」
「なるほど」
「ビラの用意も出来ております。」
それを見るとオルレアン公はニヤリと笑った。
「これであの錠前屋も終わりだ。」

「そうか…奴らの狙いが分かったぞ。」
彼らの様子を見ながら、ベルナールは言った。
実はアランの馴染みの娼婦がパレ・ロワイヤルで何かありそうだと教えてくれたのだ。
それで元ここを根城にしていたベルナールと探りに来たというわけだ。

「狙いって、どういうことだ?」
「8月30日のことを思い出してみろ。」
「ああ、あの『ベルサイユに行こうぜ』って市民が集まった事件か。
確かあれはラ・ファイエット候が国民衛兵隊を率いて…って?!
まさかあいつらまた、ベルサイユに市民を送ろうっていうのか!」
「そうだ。暴動をわざと起こして ベルサイユになだれ込ませる気だ。
そして混乱に乗じて王とその家族を亡き者にしようというのだろう。」
「だが、今、王の人気は回復しつつあるのに…」
「暴動を起こすことなどわけないさ。
まだまだ、パリは治安も悪いし 市民の生活は改善されてはいない。
市民の不満はいまだ高いままなんだからな。」
「確かにな。衛生面でも セーヌは悪臭をはなっているし 
浮浪者はゴロゴロそこいらに寝転んでいる。」
「じゃ、オスカルとラ・ファイエット候に知らせてやるか。」
「まぁ待てよ。ベルナール。いつもあいつらだけヒーローにしてやることないさ。
たまには、仕事を省いてやろうぜ。おれに考えがある。」
アランは胸を叩いた。

アランは急いで国民衛兵隊の詰所に向かうと
「ラサール ピエール 手柄立てさせてやるぜ。」
そう言ったのだ。

ラサールとピエールは 急ぎ、国民衛兵隊を率いて パレ・ロワイヤルに進軍した。
到着してみると 集まっている人数は先ほどより多くなってしまっていた。
それを囲うように軍を展開させ 密かに周りを固めた。

「あ〜あ ばかやろう。右が開いてるぞ。」
この様子を陰から見守りながらアランはハラハラしていた。
「仕方ないさ。いかに今は小隊長様とはいえ、
おまえみたいに士官学校で学んだわけじゃないんだから。」
ベルナールもそう言いながら、心配そうに事の成り行きを見ていた。

兵士が配置に着くとラサールは 数十人の女の一団に声をかけた。
「市民から妖しい格好をした集団がいると通報があった。検めさせてもらう。」
「ちっ!」
舌打ちするとまず一人の女が逃げ出した。それを合図に何人かが別々の方向に逃げる。
「捕えろ!」
潜んでいた兵士がいっせいに取り掛かり 手当たり次第捕縛していく。
「えっ隊長!こいつ男です。」
「こいつもだ!」
女ばかりと思っていたが実は半数近く男であった。
「構わないから、一人残らず とらえるんだ。」
ピエールが動揺する兵士に檄を飛ばす。

「ちっ 言わんこっちゃない」
アランは先ほど気にかけていた右側の包囲網の抜け穴から 
逃げ出していく賊を見つけ追いかけた。
後ろから羽交い絞めにすると 賊は隠し持っていた短剣の頭で思い切りアランの横腹を付いた。
「うっ…」
アランが思わず怯んで手を放すと その隙にさやを抜いた。
アランも剣を抜く。

対峙する二人の横を別の賊が抜けて行ったが 今度はベルナールが追っていた。
この賊はスカートを破り捨てると 壁に這い上がり上へ逃げようとした。
だが ベルナールの剣はそれより早く 賊の手に掠り傷をつけた。
驚いた賊は無様に地面に転がった。

「アランこっちは終わったぞ!」
「なあに こっちもすぐに片付く」
アランの相手はサーベルと短剣というハンディがありながらも果敢に挑んでくる。

"やっかいだな。相当な手練れだ。"

おそらく 今回のリーダー格と思われる男だ。
何としても傷つけずに生け捕りにしたい。
「手こずっているんなら 手伝ってやろうか?」
ベルナールがニヤニヤ見ている。
「バカ 言え もう終わる。」
アランがそう言うのと賊の短剣が飛ばされるのが同時であった。
すぐさま アランは踏込み 逃げ出しかけた賊の足を払った。

「すまん。助かった。」
ラサールが兵士達を連れてきた。
「これで粗方、捕縛出来た。本部に連行するよ。」
「ああ、ばっちり締め上げてやれ。」
「本当におれ達の手柄にしていいのか?アラン。」
「これはおまえがちゃんとした仕事だろ。
遠慮はいらねぇよ。おれは善良な市民として通報しただけだぜ。」
「ありがとう。今度おごるよ。」
「おう!楽しみにしてる。」

兵士達ととらえた賊を引き連れて 
帰っていくラサールとピエールのブルーの軍服の後ろ姿を
アランは見つめていた。
「おまえ 軍に戻りたいんじゃないのか?」
「いずれはと思っている。しかしそれは今ではない。」
「もう 店が開いている頃だろう。朝食でも食べていくか。」
ふたりは 商店の立ち並ぶ中庭へと入って行った。
    前へ    ダンドリBOOKの世界    次へ
inserted by FC2 system