捕らえた賊の自供と持っていたビラなどから この恐るべき計画が明るみに出た。
オルレアン公が主犯格とあっては パリの警察では手に負えず この件は国民議会と王に委ねられた。
議会はこれに苦慮し王室内の内輪もめとして 王の裁量に任せることにした。

ルイはすぐさま オルレアン公の出頭を命じた。
「あなたは 何故ここに呼ばれたのか お分かりですね。
あなたはわたしの従弟だ。望むのなら 家督を息子のフィリップ殿に譲り
隠居することを認めてもいいのだが。」

居合わせた人々は口々に反論した。

「なりません。陛下。」
「そうでございます。公の今までの陛下に対する無礼の数々を考えましても、
この機会に断固たる処分を行うべきですぞ。」
「そうですとも。陛下。」
「陛下。御決断を!」

皆の意見が出尽くすのをルイは静かに待った。
「皆の意見は分かった。だが わたしの意見は変わらない。どうなさる?」
オルレアン公は観念した。
「相変わらず 高いところからお優しい事だ。
いいでしょう。陛下のお顔をたてましょう。」
オルレアン公はラ・ファイエット候に付き添われ ベルサイユを後にした。

この決定は王の側近たちをがっかりさせた。
「またか… 全く陛下はお人がいいんだから。」
「くそ!ルイ15世の御代ならこれ幸いと処刑されていただろうに。」
「ああ…!もう!」

しかし そうでもない者もいた。オスカルである。
「アンドレ 陛下らしいと思わないか?」
「そうだな。だが 確かにオルレアン公を決定的に叩くチャンスではあったな。」
「ここで オルレアン公を処刑するのはたやすい。
それをなさらない陛下を気弱いという者もいるだろう。
だが、本当に気弱い者ならば 
むしろオルレアン公を処刑してしまった方が安心するのではないか。
そうなさらない陛下をわたしは真に強い人間だと思う。
残虐で冷酷なのが強さではないだろう。」
「うん。おれもそう思う。命の危険を顧みず 民衆を信じ パリを訪問なさった陛下だ。
弱い人間であるはずがない。」

オスカルは自分が今していることが 間違いではなかったと確信した。

それにしても、やはり パリとベルサイユでは温度差が出来てしまうようだ。
オスカルは王に進言することにした。
「陛下。急ぎパリにお移り下さい。
ベルサイユはもはや いえ、もとよりフランスの中心ではなかったのでございます。」
これは かなり 無礼な発言である。王のいるところがフランスの中心であるのだから。
けれど、ルイは気を悪くすることはなかった。
「そうだね。そうするとしよう。」
「ありがとうございます。陛下がフランスの中心におわせば国情も早く安泰するでしょう。」
オスカルは深々と頭を下げた。
ルイ自身も自分がパリにいないことが事態を悪くしていると感じていたのだ。

本当ならば春から改築にかかり引っ越すはずであったのだが 
「来週には宮廷を移したい。とりあえず雨露をしのげればよい。」
ルイはそう命じた。
比較的使えそうな部屋の多いテュイルリー宮に引っ越すこととなり 急ピッチで改装が進んだ。
ルイの希望で 新しい家具や食器の購入はせず ベルサイユやムードンなどから運ばせることにした。

議会もセーヌ川に面した「サル・デュ・マネージュ」に階段席が作られ 
急場作りではあるがともかく 王の引っ越しとともに議会を開催できるように間に合わせた。
これで議員達もパリとベルサイユを行き来しなくて済むようになったのだ。
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