ズガアァ・・・・・・ン
一発の銃弾がオスカルの肩を貫く。

ガアァ・・・ン
続く銃弾が彼女の腹を貫き 激しい血しぶきが立ち上る。
オスカルは気丈にも顔を上げ バスティーユを睨んだが銃弾は雨あられと降り注いだ。

もはや 操り人形のように体を跳ねさせながら オスカルは倒れ始めた。
そのオスカルを勇敢にも アランが支える。彼の腕に銃弾が刺さったのを最後に 一時銃声が止んだ。
次の弾を込めるための間が開いたのだ。ユラン伍長やピエールが駆け付ける。

「射撃を…中断する…な…」

あ…紅い… 目の前が真っ赤だ…なぜ?

「あ…あと ひといきで… バ…スティーユは 陥ち…る…」

砲弾の音が聞こえない。銃声も聞こえない。こんちきしょう!

「つ…づけて…!!」

オスカルの渾身の叫びに隊員達が持ち場に走る。その駆け足はオスカルにも聞こえた。

畜生! 畜生! 畜生!

どんどん 視界も 聴覚も 麻痺していく。
目を閉じると 二度と開けることが出来ないのではないかと思えるくらいに瞼の重みを感じた。

「キャアァァァ!! オスカルさまあッ!!」
鈍りだしたオスカルの耳に つんざくような悲鳴が聞こえた。

ロザリー?

「オスカルさま しっかりして ロザリーです オスカルさま」

そうだ! わたしはこんな所では死ねない。
新しい時代が 今始まろうとしているのだ。

だが 体は鉛のように重い。
オスカルの周りに 柔らかな闇が広がる。
ふっと 力を抜きさえすれば その優しい暗闇に落ちていけるだろう。

楽になれる 何もかもから

この体を覆う痛みからも 

幾重にも自分を縛ってきた 一切のしがらみからも

落ちてしまいたい… 

闇は優しくわたしを匿ってくれるだろう。

アンドレ おまえも昨日こんなふうに苦しかったのか?
それでも おまえは 耐えて わたしのところに還ってきたのか?

死ねない!助けて!アンドレ!!!

「隊長!しっかりしてください!」
力強い声が オスカルに届く。

「救護所まで もう少しです!!」
ロザリーの声も聞こえる。
必死に自分を助けようとしてくれている二人の声が オスカルの意識を覚醒させる。

死ねない まだ やるべきことがある。
死ぬわけには いかない!!!

目の見えぬアンドレを 遺して逝けるわけがない!!

自分を信じて ついてきた兵士達を 置いて逝けはしない!!

渾身の力で 闇を振り払う。
死ねない!!!!!!!

オスカルの魂は叫んだが 彼女の意識はそこで途切れた。
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