重い瞼を懸命に開けて光を求める。
死ねないんだ 死ねないんだ 死ねないんだ
ようやく開いた目に 淡い光が感じられる。
体は痺れたように動かない。
けれど体に感じられる感触は固い石畳でもゴワゴワした木綿でもなく 
オスカルの良く知っているシルクの肌触りであった。

眼球だけを動かして 辺りを伺う。靄がかかったようではっきりしないが 真鍮の柱が2本見える。
それは天蓋に繋がっていて 房飾りの付いた重厚な織物がそれらを囲んでいる。

「あ… ここは…?」
自分はアランに運ばれているはずじゃないのか?
ここが救護所なのか?それにしては…

「気がついたのか?」
狭い視界にいきなり アランの顔が飛び込んできた。
「良かった!一日たっても寝たままなので さすがに心配したぜ。」

一日たっても?

「気分はどうです?水飲みますか?」
アランの声に 何人かの女性が駆け寄った。
一人がオスカルの額の汗をぬぐい もう一人が水を飲ませようと吸い口の用意をする。
体を少し浮かせ クッションを上半身の下に滑り込ませる。

水を一口飲むと 体に生気が甦るのを感じた。

ふぅーっ

長い息をすると 自分が生きているのだと実感できた。
とたん 痛みが全身を襲う。

いつっ…

「痛みますか?隊長」
「大丈夫だ。それより ここはどこだ?」
「ラ・ファイエット侯爵のお屋敷です。隊長は銃弾に倒れ意識が丸一日、戻りませんでした。」
「ばかな?わたしが丸一日、寝込んでいたというのか?」
俄かには信じられなかった。オスカル自身はほんの少し目を閉じていたくらいの認識しかない。
「本当です。」
アランは真剣な顔で答える。
その時 外から大きな歓声が聞こえてきた。

「国民議会万歳!国民万歳!自由万歳!祖国万歳!」

大砲の音も聞こえる。

「いったい 何が起きたのだ?」
「さあ…」
アランが窓を開けて外を見ると 市民が槍や銃を担いで 行進してくるのが見えた。
「国民議会万歳!国民万歳!自由万歳!祖国万歳!」
「国民議会万歳!国民万歳!自由万歳!祖国万歳!」
皆口々に歓喜の声を上げている。
その集団はオスカルの部屋の下の通りまで 怒涛のように押し寄せさらに流れていった。

「おれ、様子を見てきます。」
アランが駆けだしていった。
「あ…」
オスカルはもう少し状況を聞きたかったのだが アランはもう部屋を飛び出していた。
その後ろ姿を見て 初めて彼が三角巾で腕を吊っているのに気がついた。
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