第3章 戦の庭へ

ルイのフランスの復興のやり方をもっとも面白く思っていなかったのは プロバンス伯爵である。
兄王のしていることは いずれは王制を廃し 共和制に導くものである。
それは 自分が王座につく機会が どんどん遠ざかることを意味していた。

病弱な王太子はそう長くはなかろう。
ルイ・シャルルなど フェルゼンの子であると 騒ぎ立てて排してしまえばよい。
そのように考え事態を見守るつもりであったが そうこうしているうちに 
共和制がどんどん進んでしまいかねない。
彼はついに一か八かの非常手段に打って出た。

なんと、彼は武装部隊を使って,王の拉致を企んだのだ。
これを王が自ら逃亡したと見せかけ 上がりつつあった王の人気を
「国民を捨てて逃げた王」と言うレッテルで下落させ 、
王を失い不安に落ちた国民の前に颯爽と現れ、始めは王の代理の摂政としてたち、
いずれはルイ16世を廃位し 自らがルイ17世になる計画である。

そのための資金調達を自分の取り巻きのファヴラ中尉にまかせた。
彼は銀行から200万リーブルの借入を申し込んだ。
しかし この中尉の行動と借入金の保証人がプロバンス伯であることに
不審を感じたラ・ファイエット候により この企みは明るみにでることになった。

もともと ラ・ファイエット候は王の敵として
プロバンス伯の周囲に目を光らせていたのである。

しかし ファヴラ中尉は決して口を割ることはなかった。
あくまでプロバンス伯には借金の保証人を頼んだにすぎず 
計画は自分一人で考えたのだと主張したのだ。
彼はついに白状することなく 絞首刑になった。

刑が執行された夜、ルイは弟に会いに行った。
「今日ファヴラ中尉が処刑された。共に彼の為に祈らないか。」
「何故 わたしが?」
「あなたの 知り人だったのだろう。」
「罪人です。」
「では、わたしが 代わりに祈るとしよう。」

立ち去りかけたルイの背中にプロバンス伯爵は叫んだ。

「あなたの そう言うところが大嫌いなんです!!」
ルイは足を止めて振り返った。

「いつも いつも 善人づらして 結局、皆を困らせるんだ!
清濁あわせ飲めなければ君主など務まるものではないのに!」
ルイは逸らすことなくプロバンス伯を見据える。
「それ それ その態度。王たるにふさわしくないのに 偉そうにわたしの前に立ちはだかる。」
ルイの目は怒りに燃える弟とは反対に静かである。
「どうして あなたが兄なのだ?たった一年生まれてくるのが早かったというだけで、
こんな愚鈍な男が王だなんて!」

はぁはぁ 言いたいだけ叫んで息を荒げている弟にルイは静かに答えた。

「そうだ。わたしは王だ。」
「そうでしょうとも。王だというだけで 国民に愛される。うらやましい限りだ。」
「うらやましい?」

"王の重責がか?王というだけで愛された時代は
とうに終わっていることに何故気が付かない?"

「わたしはそなたの方がよほどうらやましい。わたしは母に愛されなかった。」

"ああ 何故こんなことを わたしは口走っているのだろう?"

「はぁ?何を言われるのやら。いい年して母親が恋しいとは!」
はっはっはっ…と高笑いをして 
「まったく お笑いだ こんなマザコン男に わたしが臣下の礼などとれるものか。」
そのまま笑いながら 彼はその場を立ち去った。
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