国民議会議員 政府官僚などが勢ぞろいする中を 二人の英雄は肩を並べて進んだ。
ルイは玉座に座りこれを迎える。

まずはラ・ファイエット候が王の栄光を讃え 凱旋の報告をする。
それにルイが労いの言葉を与えた。

それからオスカルが同じように口上をのべ またルイが労うのだ。
そして ここで正式に 任命式が行われる。
「ラ・ファイエット将軍 此度の働きみごとであった。
よってそなたを元帥とし、フランス全軍の総司令官に任命する。」
「謹んで承ります。見事国民の期待に応えましょう。」
ここで ラ・ファイエット候は王の期待ではなく、国民の期待とあえて答えたのだ。
こうした 細かい駆け引きはオスカルにはまだ出来ないことである。
やはり ラ・ファイエット候と一緒に凱旋できたことは彼女にとって大きな幸いであった。

「ジャルジェ将軍。」
オスカルはルイの言葉に身を固くする。
「そなたを近衛総司令官に任命する。わたしの傍近く仕えてほしい。」
内々に打診があった時 オスカルはジェローデルを押し 自分は辞退した。
近衛は父とアントワネットさまに一番近い場所ではないか そんなところで働けるわけがない。

けれどジェローデルはすでに ラ・ファイエット候の副官として 
フランス全軍を統括する任務に就くことが決まっていた。
まだまだ フランスは諸外国の中で孤立している。
いつどこから攻められるかわからない。プロバンス伯のような亡命貴族の動きも気になる。
それなのにフランス軍は将校が不足していた。
そんな中、ジェローデルは貴重な存在なのだ。

一方、宮廷は誰が味方で 誰が敵なのか分からない状態であった。
隠居したオルレアン公も油断ならない。
さらに急進的な共和主義者も あちらこちらにうようよしている。
ゆえにお飾りではなく 真に王家をお守りする近衛が必要なのだ。
絶対的に信頼できるものでなければ務まらない。
父ジャルジェ将軍はたしかに優れた軍人である。が、高齢であった。

誰でも務まる任務ではない。外国の賓客を護衛することも 
式典に参加することも ある部隊なのだ。オスカルは引き受けざるをえなかった。

「謹んで承ります。このオスカル 命に代えましても任務を果たします。」
それはオスカルの決意であった。今度こそ 守り通してみせると。
ルイの後ろに控えて立つ アントワネットの瞳から はらはら 涙が零れた。

"何故 涙を?"

オスカルは苦しい思いが込み上げたが 
先ほどのラ・ファイエット候の言葉を思いだし、毅然と顔を上げ続けた。

任命式の後は凱旋を祝う宴が 宮殿の中庭で行われた。 
新たに将校となった青年たちが 次々とオスカルのもとに挨拶にやってきた。
「君のことは 憶えているよ。」
オスカルは眼光鋭い青年将校と握手を交わしながら話した。
「ナポレオン・ボナパルト、以前剣の柄が当たったことがあったね。」
あの時と同じように彼はニヤッ…と笑った。
「私も憶えています。ジャルジェ将軍。
あなたはあの時、まだ貴族の手先でした。だがこれからは同士です。」

"言ってくれるな…"

まだ、駆け出しの一将校でありながら オスカルに対してまったく臆するところがない。
それどころか 不遜ですらある。

"これからは 実力の時代なのだ。"

大貴族の伯爵令嬢という肩書はもはや何の意味も持たない。
さらに剣や銃の腕、教養といった物だけでも評価されはしない。
人間的魅力 駆け引き 時代や人を見る目。 
そういったことにも長けていなければ たちまち追い落とされるだろう。
綺麗ごとだけでは王家を守れはしない。
オスカルは改めて自分に課せられた任務の重さを実感した。
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